法人独自の取り組み

2021年06月16日 農福連携事業

#農福連携 #92 「地域の困りごとが次々解決していく、農福連携の可能性」

農福のはじめた動機は、利用者の工賃向上と、利用者の仕事が近い将来、機械化や自動化されたり、海外にでていったり、AIの台頭でなくなってしまうのではないのかと危惧していたことが背景にある。だから、自分たちの手で「仕事」を産み出す仕組みをできるだけ早い段階で取り入れるべきだと考えていた。

また、彼らの権利、働く権利をもっと高い段階で擁護していき、尊厳のある働き方、やりがいと誇りのもてる仕事(ディーセントワーク)にかえていくことが求められているのではと感じていた。

例えば、出荷もしないネジをひたすら回させて、それを元に戻すような非生産的なことをひたすら繰り返す。しかも万年させることは、人の成長を奪いかねないのではないかと心配していた。利用者の大切で有限の人生時間をどのように考えているのか信じがたい。我々の使命は利用者の今はできないことを将来はできるかもしれないと信じ、本人の意向を尊重しながら、試行錯誤を重ねて、彼らの課題解決に貢献していくことだと思っている。結果として彼らの人生がより好転していくように支援していくことが究極な仕事のあるべき姿だと信じてやまない。

いつまでも、仕事をもらってばかりいないで、つまり下請しないで、社会との関係性を再構築する必要性を感じていた。簡単で単調でだれでもできる仕事を社会貢献の名目で、ややもするとお涙ちょうだいの精神性で障害の人に仕事をしてもらおう、仕事を産み出すことがほとんど苦手な福祉業界に社会が上から授けてやりましょうという今までの歴史からすると授産的な信仰が根強い業界。仕事をもらうために、頭をさげてお仕事をいただいて当たり前。それを利用者個々人に分け与えて、低工賃のままで、20年たってもほとんど進歩もなく現状維持が関の山。

福祉以外の他の業界は知恵をしぼり、試行錯誤を重ね、世の中に新しい付加価値を提供してきた。例えば、スマホの登場は世の中の生活様式を短期間に変え、なくてはならないものになってしまった。

一方、福祉業界ときたら、本人尊重、権利意識、リスク回避のことばかりで主に自分を守っておけば、もっというなら既得権益を死守することで、自分たちの生活はなりたってきた。利用者の工賃は低いままでも。

この現状はすでに世の中や行政はきっと見抜いている。おそらく将来はもっとシビアに切り込まれていくだろう。だから昨今の社会福祉法人以外の法人格をもつ業者がどんどん福祉業界に参入してきて、利用者獲得で苦戦しているのは言うまでもない。

さて、先日、西活の隣にある香月中央公園で、定期的に公園の草刈りをしていた。どうも地域住民やシルバー人材の方を中心に共同で作業をされていらっしゃるようだ。刈り取った草の量は、およそ3トン。それを軽トラックに積んで、遠い場所にもっていくそうだ。しかも何往復も。

そのために処理料やガソリン代がかかって、ちょっとした困りごとだった。つまり地域課題。以前から我々は、そこに着目していた。地域課題の解決の貢献も社会福祉法人の使命の一つであると言われ始めた。

西活という小さな部署の一つでも何か実現できないだろうか。できることはなんだろうか。にしかつ農園ではおおくの野菜ができている。これから先も栽培していくとなると、地力の低下が懸念された。そうだ、にしかつ農園でも抱えている困りごとで地域の困りごとが解決するのではないかと行き着いた。

答えはこうだ。刈った草をそのままもらうことで、地域の方は運ぶ必要はないし、処理料やガソリン代もまったくかからない。にしかつ農園にとっては、刈り取った草は、しばらく野積みにしており、全体を枯らしたあとに、少々糠をいれることで、草全体が発酵し、熱を持つようになる。なんと温度計で計ったら、70℃近くもあがる。結果、草堆肥として生まれ変わる。

それを土に還すことで土壌微生物のエサとなり、土のコンディションがよくなる。つまり、地力の維持が期待できる。こちら側から地域の方に声をかけ、にしかつ農園の取り組みを説明し、草をいただけないかを申し出ると、即、快諾。今後も定期的に草をもって来てくださることにもなった。お互いの困りごとが実は解決へ向かうことに気がついた。そして、にしかつ農園の野菜は、楠北朝市に出品して、地域の方に喜ばれている。

香月中央公園の困りごとは、草の処理。楠北地区の困りごとは、買物する場所がない。にしかつ農園の困りごとは、地力の維持と野菜の販売先。これら困りごとを掛け合わせることで、すべてつながりすべて循環してしまった。

これは一事例かもしれないが、地域課題の解決に貢献しているのではないか。社会福祉法人は困っている人の課題解決に乗り出す傾向にあるが、実はもっと身近なところで、地域課題はいくつもあって、それに社会福祉法人は解決することが期待されているのではないかと昨今の厚労省の資料を読み込んでみると感じることである。

最後に、地域の困りごとを解決した、にしかつ農園の事例は利用者の工賃向上へ繋げられる夢にまで膨らんでいる。みんながWIN-WINになれる関係性を構築できるといろいろな地域課題、社会課題が解決へ向かい、ひいては地域共生社会の実現につながると思う。

(写真は、ご本人様の同意を得て、撮影、掲載したものです。)

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